病院(医療機関)の水害BCP対策:重要事項と行政支援の徹底
営業リポート
病院(医療機関)における水害に対するBCP(事業継続計画)対策は、単に施設を守るだけでなく、災害時においても地域住民の「命の砦」としての機能を果たし続けることを最大の使命とします。そのため、人命の安全確保と地域医療機能の維持を両立させることが大きな目標となります。水害は地震と異なり予測可能という特性を活かし、発災までの時間帯に実行すべき☆行動計画(タイムライン)☆を事前に策定し、かけがえのない生命と重要財産を守るための対策が喫緊の課題として求められています。
1.災害拠点病院に求められる水害BCPと重要対策
水害リスクへの対応は、近年、厚生労働省により災害拠点病院の指定要件として義務化が進んでいます。
施設・重要設備の物理的保護と指定要件
物理的な防御策は、浸水被害を直接的に防ぐための最も基本的な対策であり、特に災害拠点病院では重要機能の維持が強く求められます。
| 分類 | 対策の具体例と指定要件 | 現状のリスクと背景 |
|---|---|---|
| 浸水防止 | 止水板等の設置による止水対策、排水ポンプの設置等による浸水対策を講じること。 | 厚労省の研究班の調査では、災害拠点病院の約3割(221施設)が洪水浸水想定区域内に立地していることが判明しています。また、会計検査院の調査では、一部の災害拠点病院で止水板の設置が不十分であるなど、継続医療に必要な電力が確保できないおそれがある状況が指摘されました。 |
| 重要設備の高所移設 | 自家発電機等の高所移設(浸水想定区域に所在する場合)。 | 自家発電機や医療機器が浸水被害で使用不能になると、病院機能が停止しかねません。過去の事例では、建物の損害だけでなく、医療機器の損害も億単位に上り、復旧に長期間を要しています。 |
| 非常時電源・燃料 | 通常時の6割程度の発電容量のある自家発電機等を保有し、3日分程度の備蓄燃料を確保しておくこと。 | 自家発電機の設置場所について、地域のハザードマップ等を参考に検討することが望ましいとされています。 |
| 水の確保 | 災害時に少なくとも3日分の病院機能を維持するための水を確保すること(3日分の容量の受水槽の保有、又は停電時にも使用可能な地下水利用設備の整備が望ましい)。 | 給水設備(受水槽、地下水利用施設)の設置は、病院の診療機能を維持するために重要であり、厚生労働省も整備を支援しています。 |
業務継続体制の確立
避難計画の明確化
ハザードマップでリスクを確認し、入院患者を☆「垂直避難(階上避難)による籠城」とするか、「域外避難」☆とするかを事前に判断し、手順を定めます。垂直避難の場合、上層階での生活維持のための物資確保計画も重要です。
タイムラインの策定
気象警報や避難情報の発令を起点とし、重要業務の停止を回避するための☆行動計画(タイムライン)☆を作成します。
資源の確保
食料、飲料水、医薬品、燃料等は3日分程度を備蓄し、地域の関係団体・業者との協定により、災害時に優先的に供給される体制を整えておくことが望ましいです。
情報通信の確保
衛星電話の保有、衛星回線インターネットの利用環境整備、広域災害・救急医療情報システム(EMIS)への参加と情報入力体制の整備が求められます。
2.厚生労働省による財政支援と指針
水害対策は多額の費用を要するため、行政による財政支援が不可欠との声が上がっており、厚生労働省はこれに対応する支援策を講じています。
厚労省の浸水対策・設備整備支援
厚生労働省は、災害時の医療提供体制を強化するため、浸水被害の予想される医療機関(救命救急センターや災害拠点病院等)に対し、対策費用の☆助成金(補助金)☆を設けています。
補助対象となる主な浸水対策
(医療施設等耐震化及び設備整備の補助事業:交付金事業)
- 電源設備および医療用設備の想定浸水深または基準水位以上への移設。
- 止水板もしくは防水壁の設置。
- 非常用自家発電設備の整備や更新。
- 給水設備(受水槽、地下水利用のための設備)の整備や更新。
- 排水ポンプや雨水貯留槽の設置。
対象範囲の拡大
以前は災害拠点病院や救命救急センターが主な対象でしたが、令和3年度補正予算では、浸水想定区域や津波被害警戒区域に所在する公的医療機関や政策医療実施機関にも補助対象が拡大されました。
災害拠点病院の指定要件改正
会計検査院の指摘や国会での決議を踏まえ、厚生労働省は災害拠点病院の指定要件を改正しています。
改正内容(令和6年4月1日適用)
浸水想定区域(洪水・雨水出水・高潮)または津波災害警戒区域に所在する災害拠点病院は、風水害による被災を軽減するため、止水板等の設置による止水対策や、自家発電機等の高所移設、排水ポンプ設置等による浸水対策を講じることが義務化されました。
要件適用猶予
既に指定されている病院でこの要件を満たしていない場合でも、具体的な整備計画を都道府県に提出し、厚生労働省に報告することを前提に、当面の間は指定を継続することが可能です。
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